第03話 我送你禮物(ウォ ソンニィ リーウー)

佐藤 猛志

 

  この“我送你禮物”は、台湾華語初学者の私が割と最初に覚えた言葉だ。「あなたにプレゼントします」という意味なのだが。何故これを最初に覚えようと思ったか。その理由を書いてみたい。

 

  何回か台湾にツアーや団体で旅行した後、最初に一人で行ったのが台南だった。中心部に宿をとった私は、夕食に少し離れた花園夜市迄タクシーで出かけた。食後少しブラブラした後、通りかかったタクシーの運転手に、手書きのホテル名を見せると、うなずき招じてくれたので、普段通り、勿論これから起こることの心配もせずに乗り込んだ。

  

  そんなに繁華ではない夜の街並みはもうすでにシャッターを閉めた店もある。突然、タクシーが止まり、振り向いた運転手が、道がわからないので降りてくれと言うのである。言葉はわからないが、それは間違いない。タクシー代をそこまでの半額にしてくれはしたが、降ろされた私はどうしようと相当焦った。

  

  意を決して、開いていた自転車屋かバイク屋だったかのお店に入った。ご年配のご夫婦がやっている小さなお店だったと思う。聞き覚えの、数少ない台湾語で「パイセー、パイセー」。手書きのホテル名を指差しながら「ゴアシュウベーキー・・・」。すみません。私はこのホテルに行きたい。と店のご主人に何とか伝えると、お二人はそのホテルを知らなかったようで、直ぐにパソコンで調べてくれた。

 

  貴方はどのようにしてここまで行くのか?歩いて行く。無理無理!身振り手振りで、そんな会話があった後、ご主人は私にポンとヘルメットを渡してくる、なんと店先にあったスクーターの後ろに乗れというのだ。『えっ。送ってくれるの?』。確かに5分10分ではなかった。歩く距離ではない。暫く走って、ホテルの前迄送ってもらってしまった。何とかお礼をしたいが、何も持っていない。失礼とは思いながら、財布を出しかけると、いらないと制される。結局、「多謝!多謝!」とお礼だけ言って別れるしかなかった。

 

  次の日、このままでは気持ちがおさまらないので、割と高価なお菓子を買って、タクシーに乗り、いただいていた名刺を運転手に見せて、何とかその店にたどり着いた。日本の旅行者が何故こんな所にと怪訝な顔をしている運転手に「ショウタンチレ」ちょっと待っててと言い残して、お礼を渡したのだった。

 

  台湾を一人で旅していると、台湾の人からの親切、それも、「ありがとう」の言葉だけでは済ませにくい親切をよく受ける。日本人も外国人旅行者には割と親切に対応していると思うが、台湾人は別格だ。それ以来、現場で慌てないために、個人旅行の際には、あらかじめ五百円程度のお土産(お菓子)を5個程度、日本で買って持って行くことにしている。それほど、台湾人の親切に出会う機会が多いのだ。

 

  親切にしていただいた方に、最後に、「多謝、多謝。どうもありがとうございました。」の後に、お礼の品を渡すのだが、黙って渡すのも変。ちょうどこの頃、台湾華語を習い始めていたので、最初に冒頭の“我送你禮物” を覚えたのだ。相手が日本語ペラペラでも、日本語でお礼を言った後、「ということで、我送你禮物。これを、受け取ってください」と使っている。